PR

日本酒の“生酛造り”って美味しいの?ー日本酒にまつわる小ネタ

小ネタ

味わいもその製法も複雑で奥深く、それが魅力となっている日本酒。
知らずに飲んでも美味しいが、知って飲むとますます美味しい日本酒の豆知識について、酒向なりに解説するコーナーです。
日本酒通はもちろん、最近飲み始めたという方にも楽しんでいただければと思います。

スポンサーリンク
スポンサーリンク

今夜の前振り

今夜のポイント

生酛(きもと)造りは、日本酒の伝統的な製法の一つで、自然の乳酸菌を活かして酒母(酛)を育てる方法です。この製法で作られる日本酒は、味わいが深く、酸味と旨味が豊かに感じられるのが特徴です。
日本酒の味わいに大きくかかわる部分の工程に、他の製法と違いがあるのです。

日本酒造りの中で重要な工程のひとつ“生酛造り”

ユネスコの無形文化遺産に登録された日本の伝統的酒造りは、500年以上前にその原型が確立され、その技術が各地の風土に応じて発展し、自然や気候と深く結びつきながら伝承されてきました。

生酛造りの日本酒は、この伝統的酒造りの代表と言えるでしょう。その工程を知ると、日本酒のことがもっと好きになるかもしれません。

生酛造りとは酒母造りの手法の一つ

酒母(しゅぼ)とは

酒母(しゅぼ)は、日本酒造りにおいてアルコール発酵を円滑に進めるために用いられる酵母の培養液です。「酛(もと)」とも呼ばれ、日本酒の味や香りに大きな影響を与える重要な役割を果たします。

(日本酒造りの工程全体については、以下のブログにて確認いただけます。)

酒母の役割
  1. 酵母の増殖
    酒母は酵母を活発に増殖させ、アルコール発酵に必要十分な量を確保します。アルコール発酵中に糖を効率よく分解する酵母を安定して育てることが目的です。
  2. 酸の生成
    酒母には乳酸菌が関与し、乳酸が生成されます。乳酸は日本酒にとって必要のない雑菌の繁殖を防ぎ、酒母の安全性を確保します。
  3. 品質向上
    酒母の状態が良いと、発酵がスムーズに進み、最終的な酒の香味が良くなります。
酒母の製造工程
  1. 材料の混合
    蒸米、麹、水を混ぜ、清酒酵母を添加します。
  2. 酵母の増殖
    低温環境で数日から数週間かけて酵母を増殖させます。同時に乳酸菌が乳酸を生成します。
  3. 酒母の完成
    酵母の量が適切に増殖し、アルコール発酵に適した状態となったものが酒母として使用されます。

速譲酛と生酛 二種類の酒母

酒母を造る工程は、現代の日本酒造りで主流となっている“速譲系酒母”と、古くから行われている“生酛系酒母”の二つに分けることができます。大きな違いは、製造工程において醸造用乳酸菌を添加する(速譲系)か、天然の乳酸菌を取り込む(生酛系)かということです。

速譲系酒母
  • 特徴: 乳酸を人工的に添加する方法。
  • 利点: 雑菌の繁殖を防ぎ、短期間(約2週間)で酒母が完成する。
  • 使用例: 多くの現代的な酒造りで採用されている。
生酛系酒母
  • 特徴: 自然な乳酸菌の働きを利用して乳酸を生成する方法。
  • 利点: 手間がかかるが、複雑で深みのある味わいを持つ酒ができる。
  • 派生方法:
    生酛(きもと): 山卸と呼ばれる、米をすりつぶして乳酸菌を繁殖させる伝統的な方法。
    山廃酛(やまはいもと): すりつぶす作業を省略しつつ、乳酸菌を利用する方法。山卸の作業を廃止することから、『山廃』と言われるようになった。

現在は、製造される日本酒の約9割が速譲系酒母を使っていると言われており、生酛造りのお酒は希少品であるといえます。しかしながら一方で、複雑で深みのある味わいの生酛造りが見直される傾向にあり、今後はその品ぞろえが広がっていく可能性もあります。

生酛造りのメリット

その1.酵母純度が高い

各種の酒母製造法の中で、伝統的な生酛造りが最も酵母の純度が高くなります。酵母の純度が高いと『発酵の安定性』『品質の均一性』『雑味の低減』といった品質にかかわる部分や、香りや味わいに大きなメリットを享受することができます。

速醸酛では、最初に添加する乳酸液によって雑菌を死滅させますが、乳酸が次第に分解されて薄れてしまった後に侵入してくる野生酵母に対しては阻⽌力がありません。これに対し、生酛では野生酵母が侵入しても淘汰する仕組みが出来ているので、純度が高くなります。

その2.生命力が高い

生酛の酵母には、驚くほどの生命力があります。醪では低温でもよく発酵し、しかも普通の酵母とは異なり醪末期になっても死滅率は低いままです。この強さによって低温長期醪が可能となり、大吟醸などの高級酒の製造に非常に適しています。

画像:大七酒造

その3.時間経過による品質劣化が少ない

生酛造りで造られたお酒は、時間の経過による品質劣化が少ないのが特徴です。熟成の速度がゆっくりである上に成分に抗酸化性があり、劣化しにくいと言われています。品質劣化が少ないので、熟成によってますます美味しく成長していきます。

その4.香りが長持ち

香り豊かな酒であるためには、香りの成分自体と、香りを引き留める保留物質の両方が必要です。後者が⽋けていると、香りはすぐ飛散して無くなってしまいます。生酛の吟醸酒には香りの保留物質が豊富で、香りを長く保つことができます。

生酛造りの味わい

味わいの特徴

生酛造りの日本酒は、深みのある味わいとコク、奥行きのある香味が魅力です。手造りの酒母から育った酵母菌は、生命力があり、丈夫で長生きといわれています。発酵の最後まで生きているので、余分な糖分を残さないのが大きな特徴です。

生酛造りは、いわばお米の旨みを最大限に引き出す製法なのです。

料理とのペアリング

生酛造りのお酒は、酸味がしっかりしており、コクが深く、発酵由来の複雑な旨味があります。また、香りは控えめで料理の味を引き立てる要素があります。

ペアリングを考えるときは、以下のポイントを考慮すると良いでしょう。

  • 旨味の強い料理
    生酛の旨味と料理の旨味が相乗効果を発揮します。
  • 脂の多い料理
    生酛の酸味が脂をさっぱりと感じさせます。
  • 発酵食品を使った料理
    チーズや味噌など、発酵食品との相性が抜群です。

生酛造りのお酒 おすすめ3選

大七 純米生酛

大七酒造株式会社(福島県二本松市)

全ラインナップが「生酛造り」という、こだわりと信念をもつ蔵元です。

山田錦100%の純米生酛。お米由来の豊かなコクと旨味、酸味が見事に調和した、バランスのよい味わいの酒です。キレのよい後味で、燗酒にもピッタリです。蔵元のおすすめは、40~45度程度のぬる燗だそう。

精米歩合    69%
日本酒度    ー
酸度      ー
アルコール分  15度

画像:大七酒造株式会社

純米生酛原酒 風越

喜久水酒造株式会社(長野県飯田市)

長野県南部の南信州で生産した特別契約栽培米『たかね錦』を全量使い醸し上げたお酒です。

生酛造り原酒のため、力強く濃厚な味わい。しっかりとした酸味が味に立体感をもたらします。旨味が強くコクのある料理との相性が抜群です。

精米歩合    65%
日本酒度    +6
酸度      1.8
アルコール分  17度

画像:喜久水酒造株式会社

花垣 生酛純米

株式会社南部酒造(福井県大野市)

南部酒造は、地元福井の良質な米と水を使用し「手造りに徹して目の届く量を丁寧に醸し、より高品位の酒を世に送り出す」を理念に掲げ、純米酒にこだわった酒造りを行っている蔵元です。

生酛造り特有のしっかりとした酸味と深い旨味が特徴で、料理とのペアリングに優れた食中酒として非常に高く評価されています。シンプルな和食からこってりとした洋食まで幅広い料理と楽しめる、バランスの良い一本です。

精米歩合    70%
日本酒度    ー
酸度      ー
アルコール分  15度

画像/株式会社南部酒造
タイトルとURLをコピーしました